英雄 オデュッセウス
その一 その二 その三 その四 / 後記
【解説その一】 イタカ島の王ラエルテスの子オデュッセウスは、ヘルメス神の子アウトリコス
を祖父に持つ、神にも勝るとも劣らぬ知恵と勇気に満ちた勇者で、二十年もの長い冒険を経て故
郷へと帰還した堅忍な英雄でした。

 賢人オデュッセウスの名は若くしてギリシア中に知られ、スパルタ王ティンダレオスが娘ヘレ
ネの嫁ぎ先に頭を傷めた時に助言をなしたのも、このイタカの王子でした。彼は、並み居る求婚
者のうちから、ティンダレオス自身に娘婿を選ばせること、いかなる結果になろうと不平をもら
さないこと、万一ヘレネが夫から引き離されようとした時には、皆で阻止することを全員に承諾
させ、ヘレネはメネラオスの許へと嫁いで行ったのでした。
 ところが、このオデュッセウスの勧めた誓いは、やがてギリシアとトロイアの大戦争をもたら
しました。王子パリスにさらわれたヘレネを取り戻さんとして、かつて彼女の夫とならんと名乗
りを上げた者たちは、敵国トロイアへの出征を余儀無くされたのです。
 しかしながら、オデュッセウスにはひとつの予言が下っていました。「トロイア遠征に加わる
ならば、オデュッセウスは二十年は帰ることがかなわず、そして故郷の土を踏む時には、異国の
船に乗り、しかも物乞いの姿になっているであろう。」
 あまりに恐ろしい予言に、オデュッセウスは枯れた畑を馬で耕し、穀物の種の代わりに塩を播
いて、気が触れたふりをして徴兵の難を逃れようとしました。
 その頃、彼はティンダレオス王の弟にあたるイカリオスの娘
ペネロペを妻に迎え、その間に一
テレマコスを儲けていました。ギリシア軍の総大将アガメムノンの命を受けた賢者パラメデス
は、乳飲み子のテレマコスをオデュッセウスの牽く馬車の先に置き、果たして車の行く先を変え
た父親の正気のさまを見抜き、渋る彼をトロイアの地へと駆り立てたため、オデュッセウスは幼
い我が子の養育を賢人
メントルに託しイタカを発ちました。

 十年の長きに渡るトロイア戦争でギリシア軍が勝利を納めることができたのは、まさしくオデ
ュッセウスの労苦の賜物でした。英雄アキレウスをいさめ、トラキア王レソスを謀殺し、不落の
神像パラディオンをトロイア王宮から盗み出し、弓術の名手フィロクテテスを復軍させ、そして
かの名高いトロイの木馬の計略も、ほかならぬこのイタカの王子の功績でした。  
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