【解説】 天空を支える巨神アトラスの娘とされる見目麗しい仙女で、世界の西端に位置する絶 海の孤島オギジアの主です。 杉やポプラ、ハシバミに白檀の香る美しいオギジア島の主人カリプソは、カリブディスの渦潮 に飲まれ、何もかもを失って島に流れ着いた冒険者オデュッセウスを優しく迎え入れた情け深い 女神でした。カリプソに愛されたオデュッセウスは、この島で何の不自由もない日々を過ごす一 方で、その胸中には故郷への帰国の念と妻子への愛が、一時とて絶えることがなかったのです。 オデュッセウスが島へ漂着してより七年の歳月が過ぎようとしていたある日、オギジア島の女 神カリプソの許に伝令神ヘルメスが訪れました。仙女はこの神々の伝令役を丁重にもてなし用向 きを尋ねるに、主神ゼウスの意思の下に、オデュッセウスを彼の故郷イタカ島に戻すべく送り出 すべし、とのことでした。 カリプソは、不老不死の身である自分たち仙女が、定命の人間らと添い遂げようと願うと神々 はいつもそれをこころよく思われずに仲を引き裂こうとする、と嘆きながらも、最も尊い神の命 とあらば逆らうこともはばかられ、泣く泣く愛するオデュッセウスに旅立つ支度を調えさせるの でした。 オデュッセウスは木々を伐り筏を組むと、仙女カリプソの編んでくれた帆をつけ、大熊座を目 印にずっと左手に向かっていくようにと教えられ、独り海へと漕ぎ出ました。 【後記】 この絵はサザエさんではありません(笑)。カリプソの名は「隠れた女」を意味し、一 説には洞窟を聖所として崇められた太古の女神の名の一つとも考えられているようです。オデュ ッセウスとの間に儲けた子は、一人とも二人とも言われています。 オデュッセイアが海の物語であるのと、カリプソの語源ともなっている洞穴との連想から、入 り組んだ中空の巻貝の中に隠れんぼ(?)している女性に描いてみました。ネリテスを描いた時に 巻貝だったら…というイメージをここで膨らませてみたつもりです。 貝殻にあしらった「雷沢帰妹」は結ばれ得ない愛、不実な仲、情人つまりは「めかけ」を表わ していますが、オデュッセウスにとってカリプソはただの愛人だったかも知れないけれど、彼女 の立場にしてみれば決して不実な間柄などではなく、むしろ全てを捧げた偽りのない愛だったの かも知れませんね。 |